最近、めっきり歩くことがなくなったなぁなどと思っている矢先に。
ジメジメとした、髪がべたつく様な湿度をより効果的にするかのごと
く照りつける太陽の下、ものすごく歩いた。何も考えられない。何か
を考えてはいるのだけれども、何も頭には残らないし入ってはこない。
真っ白な中、かすかに見える道を歩いている状態をイメージしながら
歩いているような、そんな気分で歩き続けた。


途中、何かを考えようと、電車に乗らなかった自分を心から恨んでみた。
何で歩こうと思ったのだろうかと自分の思考回路を真剣に分解しようと
試みたが、答えはとてもあっさりと見つかったのでイライラだけがつの
った。


全身汗だくになり、シャツが肌に張り付く。ああ、気持ち悪いなぁなど
と思っていた矢先、今度は夕立が降りつけた。湿度が足りない。そうい
って水を足すかのように、短時間に降り注ぎ、効果音さ、と言わんばか
りに雷をならした。それまで汗でへばりついていたシャツは、それが汗
なのか雨なのかわからないような状況になり、よりしっかりと背中に、
腕に張り付いた。


避難するかのように入った喫茶店では冷房が効いていて、実に効率的に
シャツを乾かし、体温を奪う。びしょ濡れで入ってきた客に嫌な顔一つ
せず、冷房を弱めた店員さんと軽く話をして、暖かいカフェオレをいた
だいた。


珍しくカウンターにかけ、まったく頭に入らない読書をしながら、電話
を待ち、カフェオレを飲んだ。5本目の煙草の火を消してカフェオレを
干した頃、雨が上がるのを確認してから店を出た。400円だった。気遣
いと暖かいカフェオレとちょっとした世間話と(頭に入らなかったとは
いえ)読書の場所を提供してくれて400円なら安いものだと思った。


「今日は厄日だ」と思う日が続き、今日はひたすらに歩き、頭に入らな
い読書をして、結局なにもわからないまま、夜にはまた歩いた。しかし
、夜のそれは昼間のそれと違い、すこしすっきりした心持ち。


翌日、つまりは今日もよく歩いた。荷物かついで汗かきながら、歩き回
った。一通り歩き、仕事も終わり、喫茶店でお茶をして、久しぶりにの
んびりと笑えた。笑い方にも何かに追われる笑い方とのんびりと笑う笑
い方とがあると今日はじめて知った。