僕はこれから嘘をつきます

きょ‐こう【虚構】
1 事実ではないことを事実らしくつくり上げること。つくりごと。2 文芸作品などで、作者の想像力によって、人物・出来事・場面などを現実であるかのように組み立てること。フィクション。仮構。


いきなり私事だが、僕は頭の中で考えているとき、「それは
本当に正しいことなのか?」と思うようにしている。それは
いつも同じ結論に至る。いくら考えても、結局は自分の価値
観の枠をでることができない事実にぶち当たり、愕然とする。
そんなことを繰り返すことしかできないという事実は、なん
とも切ない。それは檻のようなもの。僕は知っている言葉以
上のことは何一つ理解できない。それは謙虚さではなく喜び。
言葉以上のことは知ってはいけないのだろうと想像する。知
らない方がいいことというのは別に現実的に醜悪な事実とか
そういうことだけではないのだろう。


自分の思考を疑い続けると、自己防衛か、頭の中で虚構を作
り上げるようになる。
僕は必要とあらば自分にだって嘘をつく。


ある作家は、作品の中で母を殺した。故郷を憎み、家を捨て
た母への愛憎満ち溢れた歌。彼は虚構の中で母を殺したのだ
ろうか。


僕は、たまに「事実」なのか「虚構」なのか、わからなくな
るときがある。常に自分が正しいと思わないようにつけた癖
は、いつしか正常な判断すらできないほどに頭の中をかき回
すようになった。


僕は正しいのか?
相手は間違っているのか?
悪いのは何だ?
正解は?
答えなんかそもそも必要なのか?


そうやって自分の価値観を疑う。
疑っても当然答えはでない。
僕は僕の知っていることでしか考えることができない。
「今」の僕には「今」の僕以上のことは何もわからない。
だからこそ疑わなくてはならない。
お前が考えていることなんかその程度のことだ。
と問い続けなければならない。


こんなことは正直しんどい。
しかし、僕はそうでなくてはならない、と思い込んでいる。
そもそもそう思うこと自体が正しいのかどうかも疑いながら。


だから僕は自分にも嘘をつく。それは多くの場合、自分にと
って都合のいいものとなる。やはり結局は自分本位にしか物
事は考えられないのだ、と現実を突きつけられることになる。
それはそれでいい。そうでないとおかしい。ただ、僕はどう
いう経験が関係しているのかはわからないが、潔癖なのだろ
う。酷く鬱陶しくなる。


嘘は防衛本能でつかなくてはいけない。
だから僕は僕に嘘をつく。(その嘘が本当は本音なのかもし
れないが)
そして、嘘をつくことで気がつく、生き物としての本能は、
酷くエゴイスティックである。
しかし、そんな時、僕は、僕には檻があることを思い出す。
そんなときは、知らないことの素晴らしさを謳歌できる。


確かに、知ること(知っていると勘違いしていることも多い
だろう)はすばらしい。知らなければ、広がらない。一番恐
ろしいのは知ろうとしないことだと。さあ、あなたは本当に
正しいのか?あなたの考えはたかだかあなたが今まで見知っ
たことだけで判断していることだろう?あなたは他の誰かの
何を知っている?ってね。


Freedom is slavery(自由は隷属だ)
知らないことが美学とされるのは、結局ユートピアと信じこ
まれたディストピアなんだろう。そんなところで生きていて
本当に幸せになれるのか?


先日読んだ本で、未来がわかる男がいた。まあ、現実にはそ
んな人はいないし、僕が思うに、もしいたら自殺してしまう
のではないかと思う。最初は楽しいかもしれない。しかし、
全てがわかってしまうということは果たして幸せなのだろう
か?とそう思う。小説の中の彼は自殺した。やっぱり。


自分に嘘をつかない人を信用していいのだろうか。
それはあっているのか?わからない。