雷ゴロゴロピンポンパン

夕方より次第に降り出し、一時弱まり、そして今
では雷が鳴っている。

音につられて外へ出て、「おお、よう光る、よう
光る」などと呑気なことをいいながら煙草をふか
していたが、次第にそのうるささに嫌気がさして
きたので舞い戻る。


得意のインスタントコーヒーをいれ、椅子に座る。
外では相変わらずゴロゴロとうるさい。
選挙カーと雷は似ているな、といつも思う。
そして雷が鳴るたびに思い出すことがある。


僕の実家の裏は公民館で、そこには放送用のスピ
ーカーがあり、そのスピーカーは避雷針を兼務し
ていた。

避雷針というのはご存知のとおり雷さんが他所へ
落ちないように一手にひきつける非常に勇敢なや
つだ。感謝している。素晴らしい。
しかし、僕はこの勇敢な避雷針に1つだけ不満が
あった。この実家の裏の公民館の避雷針には変な
癖があったからだ。

それは、雷が落ちると「ピーンポーンパーン♪」
と非常に間の抜けた音を出すという。そんな癖。

まあ、普通の雷ならいい。例えば今日のような大
したことの無いものなら。しかし、ご存知のとお
り、九州は台風王国だ。時折ものすごい雨と風と
雷がやってくる。あまり台風の来ない関西の人に
はわからないかもしれない。が、それはもうしつ
こいのなんの。

それは、実家の裏の公民館の勇敢な避雷針も呆れ
るほどだ。彼のことをよく知っているわけじゃな
いがきっと嫌になってたんじゃないかと思う。

だって、ピカッ!ドーン!「ピーンポーンパーンポ
ーン♪」ピカッ!ドーン!「ピーンポーンパーンポ
ーン♪」ピカッ!ドーン!「ピーンポーンパーンポ
ーン♪」だったらまだいい。

でも、ピカッ!ドーン!「ピーンポーン…♪」ピカ
ッ!ドーン!「ピーンポー…♪」ピカッ! 「ピーン
…♪」ピカッ! ピカッ! ピカッ! ピカッ! ピカッ!
ピカッ!

ってなってきたらそれは嫌だろう。

いつもどおり、落ちたらなる。そんな彼のルーティ
ンを刹那刹那に妨害し、数秒おとなしく鳴ることす
ら許さずに落ち続ける雷。ちょっとかわいそうに
なってくる。

しかし、それはそれで、現実はひたすらに五月蝿い。
家の目の前に雷が落ち続け、さらにはまともになら
ない「ピンポンパン」を聴き続けるというのも意外
に大変だ。そうすると幼いながらにも、雷は「怖い」
というより「うるさい」という感覚になってくるか
ら不思議だ。

そして、酷いときには避雷針君もヒスをおこして
「ブーーーー!ガーーー!」と言い出す始末。

と、そんなことを思い出した。


こないだ実家に帰ったときに、久しぶりに近所を散歩
した。
そうしたら、そのときも当時とまったく変わらず避雷
針兼スピーカーはあった。(いつの間にか逆になって
しまった)

そして、5時になったら子ども達に帰りを促すいつも
の音楽が鳴り(いまだにあの曲がなにかわからない)、
町役場からのお知らせを伝え、雷が落ちたら「ピー
ンポーンパーン」と鳴っているらしい。

そういえば、あの頃とは1つだけ変わったことがあっ
たことを思い出す。
あの避雷針に雷が落ち、「ピンポンパン」と鳴るた
びに吠えていた弟達がもういないな。と。そうだ。
もうすぐ彼らの命日だ。