間違い

世間では連休が終わって、また忙しい日々が帰ってきた様子。
連休中はガラガラだった駐輪場も今日はいっぱいで。
今日はすごく天気がいい。シャツ一枚はおればちょうどいい。そんな季節。ああ、またこの季節になったんだなぁと、ちょっとだけ思い返した。









彼女とは、知り合いの美容師さんの紹介で知り合った。
そういうと非常に最低な情景が思い浮かぶが、意外とそうではなかった。
いや、そう言って言い訳しているだけかもしれない。


「いい子がいるから紹介するよ。多分話合うと思うし」


相変わらず彼女のいなかった僕は、身を乗り出して約束した。



それから、一度皆でご飯を食べに行き、その一週間後に2人でデートをした。


その子は、流行のファッションバリバリというわけではなかったけれど、お洒落だった。
とにかくものすごく似合っていた。自分のことをよくわかっている人は、どんな格好をしてもお洒落だ。というのが僕の持論。
(まあ、よくよく見てみたら、マルタンやサンローランやらだったんだけど)


ちょっと陰のある雰囲気で美人だった。黒髪印象的だった。
ただ、表情があまり変わらない。そんな特徴のある子。


人の少ないところへ行きたい。
僕の希望に合わせて彼女が提示してきた待ち合わせ場所は目白だった。


初めて行った目白には駅を降りるとすぐに大学があり(学習院だったかな?)彼女は構内へ僕を案内した。


日曜日の大学は、人もまばらで、きっと普段は学生が溢れているであろうベンチにも僕ら以外誰もいなかった。


自販機でコーヒーを買ってベンチに腰掛ける。


ちょうど春から夏へ移り変わる季節。
その日はすごく天気のいい日で、シャツを一枚はおればちょうどいい。
青々と茂った葉っぱが風にふかれて、ザワザワとこすれる音する。とても心地よくて。風のせい。よれよれ生地のギャルソンのシャツは何度おろしても巻き上がる。面倒くさいのでまくし上げた。


ベンチに座って僕らはいろんな話をした。
仕事のこと、家族のこと。いろいろ。


しばらくして、彼女が言った。


「ねぇ。この近くに昔よく行ったカフェがあるんだけど行かない?」


僕らは目白から池袋方面へ歩いた。
(僕はこのときまで目白と池袋が近いって知らなかった)


川沿い(?だったような気がする。もしかしたら川なんかなかったかな)を歩いていると彼女は言った。


「あー。閉まってる」
「あら残念。日曜なのにねぇ」
「もーどうしようっか?池袋まで行っていい?」
「もちろん」


僕らはまた喋りながら池袋を目指した。


池袋では、どっかのビルにあったどっかの店でご飯を食べた。
(どこだったかはまったく覚えていない)


それから西口の公園(いわゆるIWGPってやつかしら)を抜け、なんかハイカラな建物のベンチに座って話した。


今日はベンチづいているようだ。
きっと過ごしやすい季節がそうさせたんだと思う。


23時。


帰るならそろそろだね。と立ち上がった。
僕は、彼女のことが結構気に入っていたので、次を誘った。


「飲みに行かない?」
「…。いいよ。どこ行く?」
「おれ、池袋全然わかんないよ。教えて」
「うーん。じゃあ、こっち」
「つか、時間は大丈夫?」
「うん」


彼女は、ちょっとだけ家庭の事情があるらしく、早く帰らなくてはいけないと言っていた。


それから。僕らは、お酒を飲んで、結局池袋のビジネスホテルに泊まった。そして朝になって起きると、となりに彼女はいなかった。


机にはメモが1枚。


「ごめんね。やっぱり帰るよ。また遊ぼうね」


それから、僕らは何回かメールをした。
しかし、僕らは二度と会うことはなかった。


理由は定かではない。でも、彼女は僕と会うのを避けているようだった。
彼女が僕のことをどう思っていたのかは知らない。
ただ、僕らはすれ違い(意図的だったのかもしれないけれど)、そのまま僕は引っ越すことになった。


引越しの日、今日で離れることを彼女に伝え、もしまたこっちに来ることがあったら会おうとだけ言った。


彼女からは一行だけの返事が来た。
「頑張ってね。また会えたらいいね。ありがとう」


そのメールを見て、僕はもう彼女とは二度と会えないんだろうなと感じた。
少しだけ寂しくなったが、「ありがとう。またね」とだけメールを返した。


午後に、運送会社の人が来た。ダンボールにまとめた荷物を引き渡し、1本だけ煙草を吸って部屋を出た。そして大家さんに鍵を返し、駅へと向かった。


この日も天気がよく。
あの日彼女とデートした日のように気持ちのいい風がふいていた。
今度は夏から秋へと季節がかわりつつある。やっぱりシャツを一枚はおってちょうどいい。そんな季節。
風にこすれる葉っぱは、あの日のように心地いい音を聞かせてくれる。
ただ、こすれる葉っぱは乾いていて、カサカサとコンクリートの地面へ向かって散っていった。


僕は公園のベンチに腰掛け、煙草に火をつけた。
少しだけ彼女のことを思った。煙草を消して立ち上がり、駅へ向かった。