代官山で、見かけるはずの無い顔が視界に飛び込んできた時は驚いた。
ついつい目を反らす。
向こうはこっちに全く気付いていない。
そうだろう。
向こうには目的があり、僕には目的が無かったから。



声をかけなかった言い訳を用意して、確認のメールを打った。
すると案の定、そこで見かけるはずの無いやつだった。
嘘を吐く女。人に迷惑をかけるような嘘は吐かないが、自身の名前も
嘘を吐く。何故かは知らない。そしてそういうやつに限って僕の周り
に多くいる。たぶん僕が必要としているからだとは思うけど。
用事で東京に来ていたそいつは、明後日には帰ると言っていた。
僕は仕事があるし、会えないと言いメールは終わった。



次の日、仕事中に何度か電話があった。
その日は会議があり、終わったのは22時。いつもよりだいぶ早い時間だった。
同期からの誘いを断って原付をとばして帰ると、メールが来ていた。



久しぶりに、帰る手段の無くなる電車に乗った。
しかも行った事のない場所まで。
財布の中身が気になる。



携帯で調べると、新宿で乗り換えてJR、それから地下へ。面倒くさい道のり
になりそうだった。でも、しばらく読めていなかった本を読むにはちょうどい
い。そう思うようにして電車に乗った。



電車に乗って本を開くと、読みたかった本なのに全然集中できなかったので、
読むのを止めた。向かいでは酔っ払いがつり革を持ってフラフラしている。
疲れているのだろう。
それからその子とはどうやって出会ったのかを思い出した。



大学のとき、友達に誘われて行った飲み会にその子はいた。
歳は2つ下のお水だった。
ちょっと可愛いなと思い話しかけ、嘘の名前と本当の電話番号を聞いた。
2,3日後、飯を食いに行くことになり、そのままセックスをした。
確かそんな出会いだった。



電車は新宿へと到着し、家路へと急ぐ人とは逆の方向へと向かう。
待ち合わせ場所は聞いたことはないが感じは読める駅近くにあるビジネスホテル。
サトーの誘いを断っていた為、飯も食っていない。
かれこれ10時間以上食っていない。
行きしなにあった吉野家豚丼を購入して少し歩くとメールで見た名前のホテル
があった。


そもそも、宿泊しないのに入れるのだろうか?


若干の疑問もありながら、何事も無いように入る。
訝しげに見るホテルマンを横目に、足早にエレベーターへと滑り込む。
なんだこれ?
明らかな夜這いだと気付く。


部屋に着くと、彼女はバスローブを羽織って笑顔で立っていた。
顔は疲れていたが元気そうだった。
それから、豚丼を食いながら昨日今日とがどれだけ大変だったかを聞き、タバコ
を吸ってまたセックスをした。


横になり、タバコを吸いながら、明日は始発で帰らないと間に合わないなと
考えた。